泥水

午前中に起きて学校かバイトに行き、やるべきことをやりながら、暇さえあればiPhoneを手にぼんやり現実でない場所に意識を飛ばす。Twitter、LINE、Instagramの更新を順番に確認し、次に就活サイトから届いたメールを開かずに削除。
右から左へ。右から左へ。
右手の親指で蹴っ飛ばすみたいに画面をなぞり、企業からのメッセージ、合同セミナーのお知らせ、白のワイシャツ、ジャケット、まだ折り目もしっかりした黒パンツ、箱に入ったままのリーガル6センチヒールを順番に頭から消していく。
Twitterの画面はいくら下に引き下げても何も変化がない。

そこでやっと諦めて、また現実の、目の前の環境に意識を戻す。先生は他の子に培地の組成を教えてる。次私何すればいいんだろ。
あ、出入り業者の人。こんにちは。あ、先生にご相談ですね。
………長くかかんのかな。トイレ行くか。煙草吸いに行くかな。

そんな感じ。

例によってお客さんが来ない。休憩まであと二時間半か。なんか内職やることないですか。ないですかそうですか。はい。

そんな感じ。


夕方と言うには遅めの時間に家路に着いて、最近体調を崩した母をフォローしながら夕飯の支度をして、食卓を囲む。弟たちが風呂を出るのを待ちながら布団で寝落ちしてしまったりして、終わり。
それでまた朝。

そんな感じ。
つまりいつも通り。


なんだか面白いようなことがあったり、仲良しの友達と(現実や現実以外で)話してケラケラ笑ったりする。お洒落なカフェを探したり、家のご飯がおいしいななんてしみじみしたり、そりゃいろいろ、1日のどっかしらにはいろんなできごとが降り落ちてくる。

降り落ちてきて、たぷんと楽しくなる。少しゆらゆら楽しい。
あとはゆっくり沈んで、また元に戻る。
底がどうなってるのかよく見えない。よく見ようとも思わない。なんか汚いし。潜ったら臭いとか、つきそうだし。洗っても、落ちにくそうだし。
ろくなもの、出てきそうにないし。

そんな感じ。



最近意識しているのは自分の表情がフラットに戻る瞬間で、ゆっくり、平らに、低温に、戻る。ような気がする。
笑顔で話してたのがゆっくり無に戻る。

そんなのを楽しんでるからたちが悪いわけで、結局退屈してる自分を見てヨシいいぞ、いい感じにおセンチだぞ、若さゆえのアレか?迷いか?憂鬱か?と、水底で冷やかして楽しんでるのが正直なところだったりする。
そしてそうやって客観視してるつもりの自分も、ただ青臭い自意識だったりして。

入れ子式に自分を眺めては外側の自分が口の端で笑う。きりがないと分かっていても今更どうやって止めたらいいのか分かんないし。

「どれが本当の自分か分からなくなりました」
なんて陳腐な言葉は絶対に避けたい。
でも全部が自分だと思ったら途方に暮れました。



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今日もコーヒーを三杯飲んで、煙草を二本吸いました。昨日から咳が出る。
高橋先生には会えませんでした。

そんな感じ。
つまりいつも通り。